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Adriana Maciel, "Poeira Leve"2007/08/05 03:40:00


Adriana Maciel, "Poeira Leve"
2004年
Rip Curl Recordings
RCIP-0078

全く偶然にタイトルだけを見て、大手ネット古書店で入手。2004年だからもう3年前の発売。ポピュラー音楽の感想としては、ずいぶん遅れていますが、大変気に入ったので紹介します。

ブラジル音楽には、全く詳しくありませんが、サンバやMPB(ブラジルのポピュラーミュージックの総称だそうです。つい最近知りました。)の名曲をカバーしたアルバムだそうです。Adriana Maciel(アドリアーナ・マシエル)という歌手も全く知りませんでしたが、舞台女優でもあり、フルート奏者・歌手という才能に恵まれ、ジャケットや特典映像を見ると、とても綺麗な人です。

アンニュイで囁くような歌い方は、なんとなくブラジル音楽に持っていたイメージ通りですが、多分かなりの偏見ですね。で、曲調もゆったりしたもが多くて、聞いてリラックスできること請け合いです。

【Rip Curl Recordingsのサイト】

【Adriana Macielの公式サイト】

以下はAmazonの広告です。

小原克博、中田考、手島勲矢「原理主義から世界の動きが見える-キリスト教・イスラーム・ユダヤ教の真実と虚像」2007/08/12 04:36:41


小原克博、中田考、手島勲矢「原理主義から世界の動きが見える-キリスト教・イスラーム・ユダヤ教の真実と虚像」PHP新書(2006年)

際物的なタイトルに反し、中身はかなりアカデミックな内容です。著者は、何れも同志社大学神学部の研究者です。マスコミを中心に安易に用いられる「原理主義」とは何かということを、掘り下げて論じています。また、同様に安直に語られる、「一神教」が宗教対立を生み「多神教」が平和をもたらす、といった議論の粗雑さも明らかにされます。

本来「原理主義」とは、キリスト教プロテスタントの一部の主張に名付けられたものであり、キリスト教固有の現象であることが、キリスト教、イスラーム、ユダヤ教のそれぞれについて仔細に議論されることによって、明らかにされます。

マスコミにより度々言及される「イスラーム原理主義」とは、イスラーム過激派、暴力派を指すに過ぎないのですが、「原理主義」という言葉を使うことによって、イスラームそのものの問題であるかのような印象を与え、背景にある真の問題から目をそらせるものでしかありません。

イスラームとユダヤ教に関する議論は、かなり専門的で読み易くはありませんが、「原理主義」という言葉を安易に用い、分かったつもりになることが危険で、大いに反省すべきことであることが理解されるでしょう。

グレース・ハルセル(越智道雄訳)「ソ連のイスラム教徒」2007/08/13 01:00:28


グレース・ハルセル(越智道雄訳)「ソ連のイスラム教徒」朝日選書(1991年)

現在品切れ。散々古書店を探し回った挙句、アマゾンのマーケットプレースで入手しました。

著者は、潜入レポートを得意(?)とするノンフィクション作家ですが、本書は、潜入レポートではなくて、普通に取材したソ連末期の中央アジア、カフカスのイスラム教徒に関するレポートです。

ジャーナリストによる著書なので、ソ連のイスラムに関する仔細な歴史などはあまり掘り下げられていませんが、実際にソ連のイスラム地域に入っての取材には他に替え難い価値があります。インタビュー相手は勿論、取材の過程で出会った様々な人々の態度や感情の表れなどから、公式的な発言・立場の裏にある現実を垣間見ることができます(ロシア人のイスラム教徒に対する差別感情とそれに対するイスラム教徒の反発等が具体的に分かります)。

また、ナゴルノ=カラバフ問題においても、アゼルバイジャン側からの見方というのは貴重な証言ではないでしょうか。

長く政府により圧迫されていた宗教活動が、ゴルバチョフの登場により、徐々にではありますが、自由を取り戻していく過程にありました。復活したイスラムのエネルギーがどちらに向かうのかは、この時点では定かではありませんでしたが、ソ連解体の可能性も十分に感じさせるものでした。

アカデミックな研究者の著書とは少し異なった角度から見た、中央アジアイスラムの姿として貴重なレポートではないでしょうか。

【復刊ドットコム復刊リクエストページ】

「ソ連のイスラム教徒」朝日選書

河野博子「アメリカの原理主義」2007/08/14 02:21:59


河野博子「アメリカの原理主義」集英社新書(2006年)

安易に「原理主義」という言葉を使ってはいけないっていう著書を紹介したばかりですが、「原理主義」という言葉をタイトルに使ったジャーナリストの著書です。

著者は、アメリカ特派員の経験が長い読売新聞の編集委員。本書の主要な対象は、「宗教右派」であり、「極右」や「ネオコン」にも言及されます。「(キリスト教)宗教右派」を「原理主義」と呼ぶなら大筋間違っちゃいませんね。

最初に「極右」の話(オクラホマ連邦ビル爆破犯や中絶反対の過激犯)から入るのは、ジャーナリストらしく、インパクトのある入り方です。その後は、「宗教右派」の話が中心となります。

著者自身によるインタビューの様子などを交えながら、現在のアメリカでの「宗教右派」の考え方と影響力の強さを解説しています。「極右」や「宗教右派」へのインタビューは、本書の説得力を大いに増しています。また、第十章で紹介される、「ヨハネ黙示録」をテーマにした小説「レフト・ビハインド」が6,500万冊以上売れているという話は、かなり不気味な印象を受けます。

歴史的背景などについてはそれ程深みがありませんが、そういった点は、研究者による著書によって補えるでしょう。最近の「宗教右派」に関する概観を知るには格好の著書では無いでしょうか。

森孝一「宗教から読む『アメリカ』」2007/08/15 02:04:08


森孝一「宗教から読む『アメリカ』」講談社選書メチエ(1996年)

直近に書いた「アメリカの原理主義」では、「宗教右派」の歴史的背景があまり説明されていませんでしたが、それを補うのが本書です。出版は旧いですが、研究者の著書だけに、歴史的背景についても仔細に説明されており、「宗教右派」の成り立ちが良く分かります。

ロバート・ベラの「市民宗教」の概念を「見えざる国教」と解釈して、アメリカにおける社会や政治と宗教の関係を歴史的に説明していきます。

現在の政治への影響力の部分は、レーガンやブッシュ(父)までが分析の対象で、時事性には欠けますが、アメリカにおける宗教の位置、影響力というものを考える上で本書は現在でも欠かせない一冊だと思います。

なお、現ブッシュ大統領への「宗教右派」の影響力や現状については、タイトルと装丁があんまりですが、中身はチャントしている同著者の、

森孝一「『ジョージ・ブッシュ』のアタマの中身―アメリカ『超保守派』の世界観 」講談社文庫(2003年)

が参考になります。

グレース・ハルセル(越智道雄訳)「核戦争を待望する人びと-聖書根本主義派潜入記」2007/08/16 02:34:14


グレース・ハルセル(越智道雄訳)「核戦争を待望する人びと-聖書根本主義派潜入記」朝日選書(1989年)

現在品切れです。著者が得意とする潜入取材を生かした、キリスト教根本主義派(原理主義派)のレポートです。

著者自身が幼少期を、非常に根本主義的な環境で過ごしたことの回顧から本書は始まります。その根本主義が、現在どのように変容しているのかを、取材で明らかにしていきます。

根本主義派の集会に参加したり、イスラエル・ツアーに参加するなどして、指導者の考え方だけでなく、一般信徒の考え方を直接取材していることに、本書の大きな価値があります。

まさに普通のアメリカ人達が、「掲挙」と「ハルマゲドン」を信じ、イスラエルを熱狂的に支持し、ソ連との核戦争を待望する姿が生々しく伝わってきます。

出版から20年(原著は1986年)たっていますが、現在でも、宗教右派の政治的影響力の背景にある、普通のアメリカ人たちの考え方を知るのには必須の著書です。

【復刊ドットコム復刊リクエストページ】

「核戦争を待望する人びと-聖書根本主義派潜入記」朝日選書

Sister Marie Keyrouz, "Sacred songs from East & West"2007/08/18 17:31:20


Sister Marie Keyrouz, "Sacred songs from East & West"
EMI Records Ltd/Virgin Classics
1999年
7243 5 45389 2 6

神保町の中古CDショップで入手しましたが、輸入版が現在でも入手可能です。

Marie Keyrouz修道女は、Deir-El-Ahmar(レバノン)生まれ。宗教音楽学と人類学の博士号、宗教学、西洋およびオリエント音楽の修士号などを有しており、「歌う学者修道女」と言われています。

彼女自身はマロン派(その歴史は詳らかではありませんが、古くから中東に伝わる宗派で、十字軍の折にカトリックに合同しますが独自の典礼を保持しています)に属するようですが、キリスト教中東諸教会の音楽をレパートリーにして活動しています。

本CDは、2枚組みで、1枚目は中東諸教会の音楽を採り上げています。マロン派(アラビア語、シリア語で歌われている)、メルキート派(ギリシャ正教に属するが、独自の典礼を保持する宗派;アラビア語、ギリシャ語で歌われている)、シリア正教(カルケドン公会議でヨーロッパ教会と袂を分かった宗派;シリア語)、シリア・カトリック(シリア正教からカトリックに再合同したが独自の典礼を保持する宗派;シリア語)の聖歌が歌われています。聞きなれたヨーロッパのキリスト教音楽とは全く異なる中東のキリスト教音楽ですが、元々キリスト教は中東で生まれたものであり、中東で布教された宗教であることを考えれば、こちらが本家本元のキリスト教音楽と言えます。

本CDの特徴は2枚目にあります。Keyrouz修道女は、中東諸教会の聖歌の録音は数多く行っていますが、2枚目のCDはヨーロッパ近代の作曲家による"Ave Maria"集となっています。グノー、シューベルト、シューマン、ベートーベン、ブルックナー等、一度は聞いたことのある"Ave Maria"が宗教性豊かに歌われています。

クラシックの声楽家による"Ave Maria"集は多くありますが、宗教性においてKeyrouz修道女に勝るものは滅多に無いのでは無いでしょうか(そんなに色々聞いている訳ではありませんが…)。

中東諸教会の音楽とヨーロッパの宗教音楽を聞き比べられる誠にお得な(?)CDです。

【参考サイト】
Sister Marie Keyrouzの公式サイト

T・ヘイエルダール(水口志計夫訳)「コン・ティキ号探検記」2007/08/26 01:29:09


T・ヘイエルダール(水口志計夫訳)「コン・ティキ号探検記」ちくま文庫(1996年)

現在品切れ。古書店で入手です。「コンチキ号漂流記」のタイトルで、子供(小学校高学年以上)向けの翻訳があり、教科書に載るなどしているので、こちらの名前で覚えている人の方が多いかもしれません。

この航海、第2次大戦直後の1947年のことだったんですね。ヘイエルダール自身は抗独戦のパラシュート隊員、乗組員で無線士のクヌートは、ドイツ軍占領地域で諜報活動をおこない、アジトをドイツ軍に包囲されながら、文字通りの血路を開いて脱出した経験の持ち主など、生々しい戦争経験をしたばかりの人たちです。戦争に比べれば、筏で太平洋を航海するなんてのは平和そのものだったのかもしれません。

計画を立ててから、アメリカ軍やらペルー政府・軍やらを巻き込んで、資材の調達や筏の建造に至る過程は、ヘイエルダール等の無謀ともいえる情熱も然ることながら、それに協力する人たちの太っ腹さも驚きます。日本人が相手だったらこんな協力はなかなか得られなかったでしょうね。あるいは、やはり戦争が終わった直後の世界的開放感が人々をそうさせたのでしょうか。

航海中に出会う海の生物の豊富さ、奇妙さ、太平洋を横断して、ポリネシアのサンゴ礁に座礁し、島に上陸するまでの危機だの、大人の夏休みの読書にもピッタリの冒険物語でした。