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大井篤「海上護衛戦」2007/10/06 06:50:44


大井篤「海上護衛戦」朝日ソノラマ(1983年)

古書店で購入。現在は、出版社が変わって「学研M文庫」から出版されています。出版社が、如何にもですが、いわゆる戦記物ではありません。

著者は、アメリカの一般大学への留学経験があり、駐米武官も勤めたこともある旧海軍士官であり、海上護衛総司令部参謀となった人です。

その現場に居合わせた人だからこそ知りえる事実を踏まえて、国力を比較すれば全く無謀な開戦であるのに加え、「海上護衛」(輸送船団の対潜水艦護衛)を全く無視して、兵站補給を軽視した海軍の無能ぶりを、完膚なきまでに実証した著書です。

戦争開始当初こそ、アメリカ海軍の潜水艦隊は主に大西洋に展開したため、輸送船の被害は少なかったのですが、艦隊が太平洋に展開するや否や、輸送船団はことごとく沈められることになります。

にも拘らず、海軍中枢は、輸送船団の護衛を軽視し、たとえ護衛をつけても、旧式の艦船(輸送船より船足が遅く、船団の足手まといになった護衛艦すらあった)に、訓練が全く不十分の予備役兵(商船員を召集したもの)を乗せたものに過ぎず、米国潜水艦隊の攻撃をかわすことは不可能でした。

戦況も押し詰まってから、補給の得られない陸軍の強い圧力もあって、やっと海上護衛総司令部を設けるものの、殆ど成果を挙げることなく敗戦を迎えます。

本書の初版は1953年(昭和28年)に、存命する人も多く登場するということから人名を伏せた形で出版されます。その後やっと、1975年(昭和50年)になって、実名を載せた新版が出版されました。それだけ、著者は当時の状況を、リアルに語っていると言えるでしょう。

本書が戦史として貴重な記録であるのは勿論ですが、それよりも、愚かな戦争を愚かな作戦で実行した(愚かさに気が付いていた人は多数いたにも拘らず!!)日本という国の組織について、深く考えさせられます。

優秀な人材を集めておきながら、信じられないような馬鹿な政策を立案するというのは、現在の日本の組織(官僚組織や、民間大企業)でも度々起こることです。そういった意味で本書は、現代的な意味を持ち続けています。

ちなみに、日本陸軍の無能さを、これまた完膚なきまでに知ることができるのが、米国の軍事史家による大著、

アルヴィン・D. クックス(著)岩崎俊夫他(訳)「ノモンハン(1)~(4)」朝日文庫(1994年)

です。

さらに、戦争全体の無謀さを知るには、

猪瀬直樹「昭和十六年夏の敗戦」文春文庫(1986年)

[現在は、「日本人はなぜ戦争をしたか―昭和16年夏の敗戦」 (日本の近代 猪瀬直樹著作集) 小学館(2002年)]

これらの著書を読めば、軽々しく「戦後レジームからの脱却」なんて言葉を吐けないことが、良く分かると思うのでうすが…、分からない人には分からないんでしょうねぇ…。

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