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シオン修道院聖歌隊他「聖地のクリスマス音楽」2008/01/05 08:34:21


「聖地のクリスマス音楽」("Weihnchten Im Heiligenland - Altchristliche Liturgien aus dem Jerusalem der Gegenwart")
ローマカトリックの聖歌:シオン修道院聖歌隊、指揮:シスター・マルシア
ギリシャ正教会の聖歌:チエザリウス修道院長と神学校聖歌隊
エチオピア教会の聖歌:マルケダ・アムダ・ミカエル(独唱)と修道院聖歌隊、アンバ・ヨセフ教父と修道院聖歌隊
ギリシャ・カトリックの聖歌:ニコラス(独唱)、ナタナエル・シャハーデ修道院長と聖歌隊
アルメニア教会の聖歌:エルサレム・アルメニア教会聖歌隊、指揮:サハグ・カライディーン
コプト教会の聖歌:パジリウス教父と少年聖歌隊・修道院聖歌隊
古シリア教会の聖歌:シリア教会聖歌隊、アブナ・ヤクープ司祭と独唱者
マロナイト教会の聖歌:ジャック・ラード司教とエティエンヌ・クリ(独唱)
録音:1967年9月
ポリグラム POCG 9832(廃盤)
1996年

10年前の廃盤をネット古書店でやっと入手したんですが、実は輸入盤("Christmas in the Holy Land: Ancient Christian Liturgies")では直ぐに買えたのでした。ナーンダ…

ヨーロッパの教会ばかりでなく、非ヨーロッパの教会の聖歌も一同に集めた貴重盤です。全部で8教会の聖歌が収録されています。

最初のカトリック教会の聖歌が女声なのが珍しいですが、女子修道院では女声で歌うのは当たり前ですね。続いて、ギリシャ正教の「野太い」男声合唱。此処までは、CD等でも比較的良く耳にする聖歌です。

3番目はエチオピア教会の聖歌。エチオピアには、かなり旧い時代にキリスト教が伝えられたため、旧い形のキリスト教が保存されています。鈴や太鼓の鳴り物入りで歌われる聖歌は、男声のみで御詠歌みたいに聞こえます。ゲーズ語という、教会典礼でしか使われなくなった古語で歌われます。

4番目はギリシャ・カトリック教会の聖歌。東方教会の内、独自典礼を保持したままカトリックに加わった教会です。男女混声でアラビア語で歌われています。

5番目はアルメニア教会の聖歌。アルメニアは世界史上最初にキリスト教を国教と定めた国です。男声でアルメニア語で歌われています。同じ男声ですがギリシャ正教の聖歌より繊細な印象です。

6番目はコプト教会の聖歌。エジプトも旧くからキリスト教が布教された地域で、イスラームに囲まれながらも、現在でも人口の1割ぐらいがキリスト教徒です。男女混声かと思ったら男声と少年による聖歌でした。鳴り物が入って、アラビア語で歌われます。

7番目はシリア教会の聖歌。アルメニア、コプト、シリアの3教会は5世紀のカルケドン公会議でヨーロッパ教会と袂を分かった教会です。男声によりシリア語とアラム語(イエスが日常に使っていたのはアラム語だと考えられています)で歌われます。

8番目はマロン派教会。中東教会の一派でしたが、十字軍の折に、独自典礼を維持したままカトリックに加わった教会です。レバノンのキリスト教徒と言えば、たいていはマロン派教徒のことです。男声でアラビア語で歌われます。

非ヨーロッパ教会の聖歌のさわりをまとめて聞けるので、非ヨーロッパ教会の聖歌とはどんなものかと興味を持っている方には、勿論最適な一枚。聖歌と言えばグレゴリオ聖歌と思っている人にも、思い込みを覆す貴重な一枚です。

【参考】
中東教会協議会(編集)、村山盛忠、小田原緑(訳)「中東キリスト教の歴史」
川又一英「エチオピアのキリスト教―思索の旅」
藤野幸雄「悲劇のアルメニア」

※アマゾンでは"Christmas in the Holy Land: Ancient Christian Liturgies"のタイトルですが、HMV等では「古代クリスマスの典礼音楽」のタイトルで販売しています。

宇野昌樹「イスラーム・ドルーズ派」2008/01/19 17:04:48


宇野昌樹「イスラーム・ドルーズ派」第三書館(1996年)

某大手ネット古書店で1,050円で入手。日本語では、現在唯一のドルーズ派に関する単行本です(本書後記にも書かれていますが、戦前に一冊だけ出版されているそうです!!)。

ドルーズ派は歴史的にはシーア・イスマイール派から分派した宗派だそうですが、もはや「クルアーン(コーラン)」を聖典とせず独自の経典を有し、ムハマドも神の使徒とは認めないため、殆ど独立した宗教ともみなせます。

その独自の経典は、宗派外部のものが読むことがでないのは勿論、一般信徒でさえ読むことが禁ぜられ、高位の宗教階層だけが所有し読むことが許されています。そのため教義には不明なことが多く、本書でも詳細は分からないとしています。

何とも謎の宗派であり、歴史的には一定の勢力を持っていた時期もあったようですが、少数派、また正統イスラームから見れば異端とも言える教義のため、長く苦難の道を歩んできました。ベルの「シリア縦断紀行」でも、ムスリムとは対立するグループとして、あるいはドルーズ派であることを隠して暮らしている人々のことが触れられています。

特に近代になってからは、イスラエルの建国に関連して、ヨーロッパ諸国やシオニストとの間に、一定の関係を結ばざるを得ない立場にあり、反イスラエルの正統イスラームからは親イスラエルと見られ、その苦難も増しているようです。

ドルーズ派を語るには、パレスチナ等中東の歴史、地理を語ることにもなるため、大した予備知識の無い私とって、本書は決して読み易いものではありませんでしたが、中東関連の文献に名前だけは良く登場する「ドルーズ派」の真の姿を知るために、貴重な一冊でした。

【関連サイト】
「鍼灸あましのたまご」さんのブログ「シリアの旅 シャハバ1: 鍼灸あましの孵卵器」にドルーズ派(ドゥルーズ派)の人の暮らす村の様子が掲載されています。

山内昌之編著「中央アジアと湾岸諸国」2008/01/26 21:57:59


山内博之編著「中央アジアと湾岸諸国」朝日選書(1995年)

10年以上前の出版ですが、様々の著者が「中央アジアと湾岸諸国」(主にロシアと国境を接するイスラーム諸国)に付いて記していて興味深いものがあります。

特に、ロシアの現役外交官の寄稿は、ソ連/ロシアの外交・思考がうかがえて興味深いものがあります。

中央アジアに対する帝政ロシア/ソ連/現ロシアのある意味一貫した思考と政策は、ロシアと中央アジアの関係の問題の解決の困難さを感じさせます。

また、トルコ、イラン、イラク、パキスタンといった国々が、中央アジアのイスラーム圏諸国との間に大きな利害(特に核兵器開発)を持って、外交活動をおこなっていることは注目すべきことだと思います。

最後に、戦前の日本の新疆(東トルキスタン)への関心を論じた第七章は、興味深いものがあります。満州、蒙古への権益を維持するため、ソ連の新疆への進出を警戒して、日本が様々な情報収集をおこなっていたことはあまり知られていないことだと思います。戦前の回教圏研究も同様の動機からおこなわれていた訳で、日本と中央アジアの最初の接点が、日本の帝国主義の中にあったことが理解されます。

チョッと旧い著作ですが、中央アジアと湾岸諸国の様々な側面を知り、この地域での紛争の背後にある各国の利害を知るのには格好の著書ではないでしょうか。