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渡邊昌美「中世の奇蹟と幻想」2008/02/09 11:22:56


渡邊昌美「中世の奇蹟と幻想」岩波新書(1989年)

出版社品切れで前から探していたのですが、最近古書店で発見。

ヨーロッパ中世における奇蹟や聖者崇敬の話です。カトリックには現在でもルルドのように病気治癒の奇蹟を起こす巡礼地がありますが、中世においては、聖者崇敬と奇蹟が、雨後の筍のごとく発生していた様子を当事の奇蹟譚等を元に述べられています。

つまるところ、需要のあるところに供給あり、ということで、教会はともかく、民衆は現世御利益を求め、それに呼応して、聖者の遺物が発見され、奇蹟が発現する図式が、実に一般化していた様です。日常的に発生する奇蹟とは、語義矛盾ですが。

現世御利益を求めるのが当たり前の日本の宗教と異なり、一神教たるカトリックにあって、聖者崇敬は、多神教化をもたらしかねない事態であり、教会側も繰り返し、警告を発していたようですが、これはそれだけ民衆の間に聖者崇敬が根強かった証左でもあります。

教会側もチャッカリしたもので、民衆の支持を得て喜捨を集めるためなら、聖者や奇蹟譚をつくりあげたり(現在のように、バチカンが聖者の認定を厳格におこなうようになるのはもっと後のことです)、他の教会の聖遺物を盗んだりと、ある面やりたい放題です。

宗教改革と近代科学の成立によって奇蹟の時代は終わったかに思えますが、カトリックの巡礼は現在も盛んにおこなわれています。民衆にとって聖者崇敬、巡礼、奇蹟は、信仰に欠かせない要素であることが窺えます。

奇蹟譚がてんこ盛りで、その背景に関する議論に深みが及んでいない感はありますが、新書で気楽に手に取れる本書は貴重と言えるでしょう。

【復刊ドットコム復刊リクエストページ】
渡邊昌美「中世の奇蹟と幻想」岩波新書

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