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西村吉正「金融行政の敗因 」2010/04/03 03:50:18


西村吉正「金融行政の敗因 」文春新書(1999年)

著者は1994年から1996年の大蔵省銀行局長。本書の刊行は1999年、退官3年で大蔵官僚が自分の経験を著書にするのは極めて珍しいのではないでしょうか。退官後、北拓、長銀、日債銀等の破たんが続き本番の金融危機が来るわけで、まさに著者の在任時期は「ミッドウェー海戦の頃」です。

当時の事実を全部書いているわけではないでしょうが、結構踏み込んだ事も書いていると思います。金融機関や住専の処理は随分もたついた様に思われていますが、ほとんど金融機関の破たんの経験のない当時としてはやむをえない点が多々あったと思います。

結局バブルの最大の要因は、土地神話とその結果としての土地担保偏重融資というのも納得です。金融自由化全般に対する著者の評価もバランスがとれていると思います。

ちなみに、著者の在任前ですが、「特に80年代後半は政治主導を鮮明にした中曾根内閣の時代であった。バブルつぶしの時期は海部内閣の時代であるが、当時、与党は小沢幹事長、内閣は橋本蔵相の強いリーダーシップでむしろ従来以上に政治主導の色濃かった時期と言えるように思う。」(p.71)ということで、バブル形成期以後には官僚の力は既に後退し始めており、国会、政府、官僚の相互的力関係の中で意思決定がなされていたようでです(各行のMOF担が叩かれるのはもう少し後ですが)。

現在品切れで、再版されることもなさそうですが、現在でも読む価値のある著書だと思います。