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ストローブ=ユイレ「アンナ・マクダレーナ・バッハの年代記」[DVD]2012/01/25 05:55:00

ストローブ=ユイレ「アンナ・マクダレーナ・バッハの年代記」[DVD](1967)

20012年1月16日、アムステルダムの自宅でグスタフ・レオンハルト氏が逝去されました。83歳でした(1928年5月30日生)。心よりご冥福をお祈りいたします。

レオンハルト氏の訃報に接し、本作品を思い出して注文、早速視聴しました。同じように、本作品に興味を持たれた方々のためにちよっと私見などを書き散らします。

■本作品はけして取っ付き易くはありませんが、さりとて、難解そうだからといって敬遠してしまうのはとてももったいない「映画」です。確かにレオンハルト等の演奏にのみ興味がある方にとっては色々と違和感かあるもしれません。しかし、本作はあくまでもストローブ=ユイレ監督の「映画」なのです。レオンハルトが、誰もが思い出すバッハの肖像画とは「似ていない」のも、本作が「映画」だからです(解説冊子にストローブの語るこの辺の由来が載っています)。

■ストローブとユイレが、本作を構想し、当時ほとんど無名と言いってよいレオンハルトに出演を依頼したのが1957年。1959年にはショット構成台本等がほぼ完成。ところが資金集めに大変手間取り、ようやく1967年に撮影されました。アート指向の映画に金が集まらないは何時の時代も同じようです。

■基本的には、時系列にそった主にアンナ・マグダレーナの語りと資料(手紙や楽譜等)、演奏の映像から構成されています。語りも映像も極力演出や感情表現を廃して、非常にストイックで淡々と表現されていきます(全てモノクロ映像なのもその一貫でしょう)。さらに、多くのショットは、ほぼ完全に引きのショットで固定されおり、演奏者全体を見渡す構図となっています(稀に演奏者にズームしていくものもある)。その固定され引いたショットの構図は、演奏者全体の配置や教会での演奏場所、窓や装飾等の見せ方等々、驚くほど緻密につくられており「その場で見ていること・場所」を強く意識させるものだと思います。

■演奏は全て撮影と同時録音(しかも一部を除き一本マイク)されており、音楽もまた「その場で聴いていること・場所」を意識させるものなのだと思います。さらに、資料研究に基づいた、ピリオド楽器とオリジナル奏法の復元による演奏というレオンハルトやアーノンクールの活動は、ストローブ=ユイレの「その場で見ている」「その場で聴いている」という演出の構造とパラレルな構造にあり、映画全体を支える重層的な構造を与えているのだと思います(だからこそストローブ=ユイレはレオンハルトやアーノンクールを起用したのではないのだろうか?)。

■本作はよくある「音楽映画」でもないし、演奏の「記録映画」でもありません。あくまでもストローブとユイレによる「映画」なのです。是非この「映画」を楽しんでください。ちょっと値段が高いですが思い切って買う価値があると思います。ここは<★★★★★>(5つ星)で。