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岩村忍「アフガニスタン紀行」2007/03/25 04:03:01


古書店で見つけた本の感想です。

岩村忍「アフガニスタン紀行」朝日文庫(1992年)

オリジナルは、1955年10月に朝日新聞社より出版されています。

謎の民族「モゴール」の調査を主な目的とした、1954年アフガニスタン8000キロ踏査の記録です。

1903年にモンゴル語を話すモゴール族の存在が報告されていましたが、その後は居住地すら確認されず、いわば幻の民族となっていたモゴール族を求めて、1954年3月、著者はアフガニスタンの首都カーブル(現在は「カブール」と表記されるが、本書では「カーブル」と表記されています。「カーブル」の方が現地の発音に近いそうです)に入ります。

若いアメリカ人研究者、通訳とともに4月末に出発し、5月21日、ヘラート近郊で、モゴール族を発見し、さらにその後、カーブルに近いバグラーンにもモゴール族が居住していることを知り、主要な目的を達成して、6月中旬カーブルに戻ります。

さらに、7月には、ハザーラジャートへ。主に豪族の家に滞在して、中世的社会の残存するハザーラ族の社会を調査します。

結局、モゴールやハザールの起源は謎のままなのですが、本書の魅力は、旅の行程自体にあります。美しいが厳しい自然に曝されながらのジープの旅。チャイ・ハーナで味わう茶の味。モンゴルに破壊された町の遺跡。故障した著者達のジープを1日かかって修理してくれる路線バスの運転手と、文句も言わず待ち続けるバスの乗客達。特に、ヒンズークシ山中ハザーラジャートの中世さながらの社会は印象深いものです。

その後のアフガニスタンは現在に至るまで、戦乱が続いていますが、そうした戦乱前のアフガニスタンの状況を知る上でも貴重な記録であり、知的な紀行文学としても楽しめます。現在は品切れ、入手不可能なようですが、復刊される価値のある著書だと思います。

なお、この調査は翌1955年に行われる京都大学学術探検隊の先遣として行われたもので、本隊調査、特に「モゴール族」調査の成果は、梅棹忠夫「モゴール族探検記」岩波新書(1956年)(こちらは現在も入手可能です)で詳しく知ることができます。

ところで、著者の調査に色々な便宜を図ってくれるのは、かつて日本への留学(戦争前から戦争中にかけて!!)を経験したアフガニスタン人達です。海外から留学生を受け入れることの重要さを再認識させられる逸話です。

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岩村忍「アフガニスタン紀行」朝日文庫