Google
 

山内昌之「神軍 緑軍 赤軍」2007/07/29 03:25:01


山内昌之「神軍 緑軍 赤軍」ちくま学芸文庫(1996年)

現在品切れ、古書店で入手しました。

トルコ、カフカース、中央アジアのムスリム・ナショナリズムとボリシェヴィズムの関係を論述した、かなりアカデミックな内容の本です。

一見すると、無神論のボリシェヴィズムとムスリムは単なる対立関係にある思われますが、実際は相互の思惑により複雑に入り組んだ関係を成していました。ロシア革命は、ロシア内外のムスリム・ナショナリストにとっては、独立への好機であり、ボリシェヴィキはヨーロッパ帝国主義に抗する同盟者とも思われていました。一方、ロシア・ボリシェヴィキにとっての東方のムスリム世界は、革命を広める対象であり、かつ帝政ロシア以来の殖民地支配の対象でもありました。

ちなみに、「神軍」とは、ナクシュバンディー教団(有力なスーフィー教団の一つ)の影響を受けたバハー・ウッディーン・ヴァイスィーが、カザンで1862年に開いた教団のこと。ロシア・ツァーリ支配に対抗すると同時に、既存のイスラーム権威がロシア・ツァーリに屈服し支配を受け入れたとして攻撃しました。しかし、ロシア革命に際しては、ボリシェヴィキと同盟関係を結びます。

次に「緑軍」とは、1920年アンカラで設立された政治秘密結社のこと(軍隊ではない)。「緑軍」の理念はイスラーム社会主義ですが、ボリシェヴィキとの連携を図り、コミンテルンへの加盟も申請します。

そして「赤軍」とは、ムスリム・ボリシェヴィキのスルタンガリエフの構想した「ムスリム赤軍」のこと。スルタンガリエフは、ロシアを中心としたヨーロッパ人赤軍とは独立した、ムスリムによる赤軍をイスラーム地域における革命の中核として構想していました。

当初は接近・協力から始まったムスリム・ナショナリズムとロシア・ボリシェヴィズムですが、やがて相互の思惑の違いが明らかになり、離反・対立へと変化していきます。ソ連邦の構成国となったイスラーム諸国は、この矛盾を内部に抱え続けていき、ソ連邦の崩壊後には、再び政治的不安定要素として浮かび上がってきます。

文庫本とはいえ、学術的な著書であり、決して読み易くはありませんが、イスラームとロシアの関係を知る上で欠かせぬ著書に間違いありません。

【復刊ドットコム復刊リクエストページ】
山内昌之「神軍 緑軍 赤軍」ちくま学芸文庫