森本あんり「アメリカ・キリスト教史-理念によって建てられた国の軌跡」 ― 2007/09/01 04:55:23
森本あんり「アメリカ・キリスト教史-理念によって建てられた国の軌跡」新教出版社(2006年)
「宗教右派」の政治的影響力によっても知られるように、現代のアメリカにおいてもキリスト教の影響力には大きなものがあります。本書はその成り立ちを、植民地時代から現在までの通史として論じるものです。
アメリカ独特のプロテスタント信仰の中から、政教分離や信教の自由がどの様に発展してきたのか、モルモン教やエホバの証人といった「異端的」な宗派の役割も含めて広く論じられています。
全体で12章のうち11章までが、植民地時代から第2次大戦に当てられており、過去の歴史的展開を論ずることに重きが置かれています。戦後から現在の状況については、概観するにとどまりますが、こちらには多くの文献があるのでそちらを参考にすれば良いのでしょう。
また、ネイティブ・アメリカン、黒人、女性、さらには同性愛者などについても、どの様な人々が権利の拡張に努め、各教会がどの様に対応した来たかという、マイノリティとキリスト教という点にも度々スポットを当てているのも、本書の大きな特徴です。
扇情的な内容でアメリカのキリスト教を論ずる書籍が目に付く中、底流からアメリカのキリスト教を理解するために、貴重な著書だと思います。
Theatrum Instrumentorum, "Cantigas de Santa Maria" ― 2007/09/08 05:39:43
Cantigas de Santa Maria
Orchestra: Theatrum Instrumentorum
Conductor: Aleksandar Sasha Karlic
Soloist: Roberto Bolelli, Federica Doniselli, Ivana Grasso, Gloria Moretti
ARTS.: 47528-2
1998年
6枚目の、Cantigas de Santa Maria(聖母マリアのカンティガ)のCDの感想です。
Theatrum Instrumentorumは、1985年にミラノで結成された古楽アンサンブルです。指揮者のAleksandar Sasha Karlicは、旧ユーゴスラビア出身で、1987年からTheatrum Instrumentorumの指揮を行っているようです。
演奏は、民衆音楽的な解釈ですが、Micrologus盤ほど「羽目を外して」はいません。Micrologus盤には付いていけない人でも、このCDなら十分楽しめると思います。民衆音楽的な解釈の演奏としては、スペイン的な側面、アラブ音楽の影響等バランスよく配慮されていて、聖母マリアのカンティガの入門編としても勧められると思います。
声楽、器楽演奏とも、洗練された素朴な演奏といった印象で、リラックスして聞くことができる佳作ではないでしょうか。
Alla Francesca, "Cantigas de Santa Maria" ― 2007/09/15 04:35:55
Cantigas de Santa Maria
Alla Francesca: Brigitte Lesne, Emmanuel Bonnardot, Pierre Hamon, Pierre Bourhis, Florence Jacquemart, Brigitte Le Baron, Katarina Livjanic, Catherine Sergent
Opus 111 30-308
1999年
これで7枚目の、Cantigas de Santa Maria(聖母マリアのカンティガ)のCDの感想です。
Alla Francescaは、1989年に結成されたフランスの古楽アンサンブルで13世紀から15世紀の音楽に焦点をあてています。指揮は中心メンバーのPierre Hamonによります。
解釈は、ビックリするぐらいヨーロッパ的で、アラブ的な要素は勿論、スペイン的な要素もあまり感じられません。完全にピレネー山脈のこちら(?)側の音楽です。アカデミックな議論よりも、ヨーロッパ人のイメージする聖母マリアのカンティガを再現したといったところでしょうか。
正にJoel Cohen,Camerata Mediterranea盤の正反対をいく解釈で、聖母マリアのカンティガが、如何に様々なイメージを喚起させるものであるのかをあらためて認識させられます。
栗林輝夫「キリスト教帝国アメリカ-ブッシュの神学とネオコン、宗教右派」 ― 2007/09/22 04:22:56
栗林輝夫「キリスト教帝国アメリカ-ブッシュの神学とネオコン、宗教右派」キリスト教新聞社(2005年)
やたらと、キリスト教的言辞を唱えるブッシュ大統領の背景にある宗教右派やネオコンの影響力、そしてブッシュ大統領自身の「神学」とは何かを論じた著書です。
本書の引用の出典を見ると新聞・雑誌、さらにはインターネットサイトが多く含まれていることが示すように、選挙や9.11など時事的な話題が中心となっており、大いに興味深く読むことはできますが、歴史的な背景の解説には深みが欠けているようです。
また、河野博子「アメリカの原理主義」でも触れられていた、「レフトビハインド」が、本書でも大きな話題として採り上げられています。たかが小説とは言え、キリスト教原理主義の終末思想を直裁にストーリーに仕立てた「レフトビハインド」がベストセラーとなるアメリカには、やはり不安を感じないではいられません。
本書は、キリスト教の影響を抜きには理解できないアメリカ、「キリスト教帝国アメリカ」、の現状について知るための一冊として、一読の価値はあると思います。
なお、同著者の以下のブックレットもコンパクトにまとめられていて、参考になると思います。
前川國男「日本相互銀行本店」 (その3) ― 2007/09/23 23:59:50

日本相互銀行本店
前川國男
中央区八重洲1-3-3
1952年
(2007年9月22日撮影)
八重洲龍名館ビルは殆ど解体が終わったようですが、旧日本相互銀行本店ビルはまだ、解体が始まっていないようです。龍名館ビルが取壊されたため、今まで見えなかったビルの背面が見えています。階段室が龍名館と繋がっていたようですが、痕はとりあえずふさがれています。
後何日この姿が残っているのでしょうか…
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村野藤吾「旧森五商店東京支店(近三ビル)」 ― 2007/09/29 10:10:58

旧森五商店東京支店(近三ビル)
設計:村野藤吾
施工:竹中工務店
中央区日本橋室町4-1-21
1931年
村野藤吾の独立後の処女作。当時としては非常に斬新であった、フラットな壁面と窓(当時は、雨対策で窓が引き込んでいるのが普通だった)。黒褐色のタイル張りの壁面も綺麗ですが、現代のビルに囲まれてしまうと、地味な印象を免れません。
1階玄関の天井にはモザイク装飾、各フロアの壁面は「トラバーチン」という石材が張られています。どちらもドイツから素材を輸入したものだそうです。
当初7階建てだったのですが、1956年に8階と後部を増築しました。村野と竹中工務店が、これに携わり、全く違和感はありません。
さらに、1992年に全面改修が行われました。外壁タイルと窓サッシはすべて交換されています。技術的問題やコスト、現代のビルに必要な機能性、さらには建築法規等々、様々な問題をクリアして、外壁タイルはオリジナルより小さくなり、窓サッシも「上げ下げ窓」から改修されています(はめ殺し?)。それでも、オリジナルのデサインが可能な限り尊重されており、ビルの保存・改修の優れた例となっています。
理解ある良い施主にも恵まれた稀有な例かも知れませんが、こういった保存がもっともっと増えてくれると嬉しいですね。
【参考文献】倉片俊輔、斉藤理(監修・執筆)「東京建築ガイドマップ-明治 大正 昭和」エクスナレッジ(2007年)
The Japan Architect, 57号, 2005年春号, 新建築社
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