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水谷尚子「中国を追われたウイグル人-亡命者が語る政治弾圧」2008/05/31 04:21:53


水谷尚子「中国を追われたウイグル人-亡命者が語る政治弾圧」文芸春秋新書(2007年)

本書は、主に「新疆ウイグル自治区」から欧米へ亡命したウイグル人に対するインタビュー集です。「新疆」とは「新しい領土」を意味し、清国の時代に領土に組み入れられ、中華民国、中華人民共和国と支配が継続した地域です。「新疆」という言葉に反発する人たちは「東トルキスタン」と呼んでいます。ウイグル人はテュルク系の民族で、イスラーム教を信仰する人々です。「新疆ウイグル自治区」にはウイグル人の他、カザフ人などの少数民族や漢族も暮らしています。

最近では、チベット自治区におけるチベット人の「暴動」と弾圧、オリンピック聖火リレーを利用した政治的アピールの応酬等がマスコミでも大きく採り上げられているので、良く知られてと思いますが、ウイグルも同様の問題を抱えているのです。

本書が最初にインタビューするのは、ラビア・カーディル氏です。氏は、開放改革下の中国で実業家として成功し、重要な公職も勤めた女性です。ところが「新疆」の問題を度々批判したことから、中国公安当局により逮捕拘留され、多くの苦痛に曝されます。欧米諸国より釈放を求める圧力がかかり、アメリカへ亡命することができました。米国でも「新疆」の実情を訴え続け、現在では、ウイグル人亡命者の「顔」の役割を果たしています。

次にインタビューするのは、ドルクン・エイサ氏です。「新疆」での学生時代、中国政府への抗議行動をおこなった学生活動家で、その後弾圧をかわすためにトルコに出国、トルコも安全ではない(トルコ政府が中国との外交関係を優先するようになった)ため、ドイツへ亡命を果たします。ドイツでは、世界のウイグル亡命者の抗議運動のとりまとめ役となっています。

さらに、「新疆」での「暴動」の先導者として逮捕された人たち、「新疆」で繰り返し行われた核実験の影響を告発した医師、アフガニスタンに逃れためにアメリカ政府からテロリストとして扱われ、長期にわたりグアンタナモ基地に拘留された人たちへのインタビューが行われます。

最後は、日本に留学中、一時帰国した際に逮捕されたトフティ・テュニヤズ氏の関係者へのインタビューです。トフティ氏は93年から94年に一回目の日本留学、95年から再び日本に留学し東京大学大学院博士課程に籍を置き、家族も日本に呼び寄せていました。ウイグルの歴史の研究資料を収集するため98年に一時帰国した際、逮捕され「国家分裂扇動罪」により懲役11年の判決を受けます。以来現在まで投獄され日本に戻ってくることができません。東京大学の再三の抗議も受け入れられていません。

インタビュー中でも、逮捕・取調べ時に自ら激しい暴力を受けたり、暴力を受けるウイグル人を目撃した様子が語られています。公にされないまま逮捕され暴力により獄死した人も数多いと証言されています。

このように、本書では中国によるウイグル人弾圧の凄まじさが語られています。ただし、著者も述べていることですが、本書は対立の一方の側のインタビューに過ぎず、証言以外に証拠があるわけではないことに注意する必要があります。実際、中国側のウイグル問題に関する報道や出版物は、全く異なる内容を伝えています(ウイグル問題はウイグル人テロリストによる暴力活動である云々)。その点で、単純な断定的判断を軽々に行うことはできません。もちろん、中国がウイグル問題をテロ活動であると言うなら、外国ジャーナリストに対して、情報を公開し、自由な取材を認めるべきなのは当然です。

もう一点、著者も危惧していることは、日本の「保守派」「愛国者」がウイグル問題を、反中キャンペーンに利用していることです。先の聖火リレーの際にも、まさに同様の危惧が現実となっていましたが、今後ウイグル問題でも同様の事態が発生すると思われます。

さらに、これも著者が注意しているように、ウイグル問題を最初に積極的に取り上げたのは朝日新聞、共同通信、NHKであり、「保守派」「愛国者」の言う偏向報道の言説は事実に基づいていません。

様々な注意点はありますが、ウイグル問題は、中国の「帝国主義的植民地政策」であり、多くの人が関心を持って国際的圧力を中国に圧力をかけ続ける必要があります。