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J・S・ミル「代議制統治論 」2009/12/08 05:00:00


J・S・ミル「代議制統治論 」岩波文庫(1997年)

ミルは代議制統治形態が最良の統治形態だとしていますが、完全普通選挙が実施された場合、多数派、即ち、労働者階級による階級立法、階級支配を恐れています。もっと一般的には、多数者による少数者への横暴を恐れています。普通選挙実施前の状況で、ミルの憂慮も故えないものとはいえないかもしれませんが、既に完全普通選挙に近付いていたアメリカは、階級対立を生むことなく議会を運営していきます。ルイス・ハート「アメリカ自由主義の伝統」講談社学術文庫(1994年) で記されたように、アメリカでは労働者とブルジョアジーの対立はおきませんでした。一方イギリスでは、自由党が衰退し、保守党と労働党の2大政党制が定着します。しかしイギリスでも一方的な階級立法がおこなわれたわけではありません。米欧では、ミルの心配は杞憂に終わったようです。

この多数派による横暴、階級立法を防ぐ手段として、知識階級に複数投票権を認めようという提案をしています。まあ、今となっては、保守派の杞憂とエリート主義のなせる妄想だったことになりますが。一方女性の参政権については強く求めています。妻と義娘も政治的に主張をもった女性であり、ミルもそれを高く評価しており、成人の半分が選挙権から隔離されたような状態には我慢できなかったようです。

しかし、階級対立という形ではなくても、多数派による少数派に対する横暴は、多くに国で現実となり、現実の暴力を生んできたのもたしかです。ミルの先見性には敬意を表したいと思います。

2院制については、英国のような、選挙によって選ばれる庶民院と学識経験者が指名される貴族院が理想と考えていたようです。アメリカの場合も、人口に比例して選出される下院と州の代表として選出される上院の違いを、有意義なものとしていました。

現代日本の衆院、参院の2院制は、上記の条件には当てはまっておらず、少なくともミルの視点からすると2院制の存在意義が問われます。やはり日本における議会改革も避けて通るべきではないでしょう。

歴史的限界もみられるミルの「代議制統治論」ですが、古典を紐解いて、現在の状況を、因って帰し方を振り返り、今後の議論に必要な知識を得ることが可能だと思います。



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