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北岡伸一・田中愛治編「年金改革の政治経済学―世代間格差を超えて」2010/03/20 02:45:15


北岡伸一・田中愛治編「年金改革の政治経済学―世代間格差を超えて」東洋経済新報社(2005年)

年金改革の内容ではなく政治過程についての分析というユニークな著書。負担と給付という利害の対立する政策に有権者や政治家がどう反応しているのか興味深い。

第1章で高福祉高負担の国(北欧など)では付加価値税が財政悪化前の早い段階(経済成長期)に導入され、低福祉低負担の国(アングロ・サクソンと日本)では財政悪化後の遅い段階(低成長期)に導入されていることが示される。ここから、財政悪化前に付加価値税を導入した諸国では、増税が社会保障に向けられることにより国民の合意を得られ、結果高福祉を可能にし、財政悪化後に付加価値税を導入した諸国では、増税が社会保障に向けられないことから国民の合意を得られず、結果低福祉に留まる、との推論を述べている。日本の税・社会保険料負担率の低さは驚異的で、これでは低福祉かつ財政赤字にならない訳がない。

第3章、第4章で、国民の年金に対する意識と2004年の参議院選挙における投票の関係を実証的に分析している。年金不信の高まりは、ライフサイクル(若年時に不信は高いが高齢化するとともに不信は低まる)によるのではなく、コーホート(生まれた時期が遅いほど不信がたかまる)によるとの推論を得ている。また、参院選の投票においては、有権者は年金制度の内容に関する議論は十分理解できていないが、年金に対する不信感から、自民党を支持しなかったことが示される。

「負担は嫌だが社会保障は欲しい」という素朴な要求を前に、年金という複雑で利害対立の激しい問題を解決するのがいかに困難か理解される。