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橘木俊詔「消費税15%による年金改革」2010/03/28 04:02:15


橘木俊詔「消費税15%による年金改革」東洋経済新報社(2005年)

著者は、明快な答えを(前半の著差の案とゼミ学部学生の案には若干の違いがある)もっています。1階の基礎年金を税額賦課方式に転換し、現状であれば、15%の消費税による月17万円(サラリーマンと生業主婦、9万円(単身者)というものです。税額賦課方式を採用するわけですから、相互扶助による保険ではなく、公共財とみなす(小中学校の学費を税で給付するのと同じ)ことになります。さらに2階の厚生年金については、確定拠出式の私的年金に移行すべきとしています。

一つの案として整合性があり、見るべきものだと思いますが、問題もあります。第一に、社会保険の持っている「相互扶助」の概念を完全に捨ててしまっていいのでしょうか。物価水準の変動や一般生活水準の変動に対応するための具体的な方法が不明です。第二に、税額賦課方式に転換しても少子高齢化の進展が進めば、税額の増加か給付の削減をせざるをえないでしょう。

2階部分については積立方式ですから、典型的にデメリットがあります。(金利変動が十分に追随できない)物価変動、一般生活水準の変動のリスクを回避できない等。そして「相互扶助」の概念はまったく排除されます。さらに、瑣末ですが、運用を政府一括にした場合「パッシブ運用」が効率の悪い産業に投資を続け、新規参入企業に資金を供給できないと言っていますが、ファイナンス理論的には明確な根拠を欠く主張です。また、世代間負担の公平と言われますが、他の世代が貧困の高齢期間をすごすことになっても、全く関知しないという考え方には納得できません。

以上の様に、著者と学生の主張は、「相互扶助」と「社会連帯」の意識を欠き倫理的な勤労意欲を低下させるのではないでしょうか。「倫理的」というのは健全な「社会紐帯」を維持する重要な要素だと思います。

個人的には、1階部分は財源面での税額比率の増加(現在でも基礎年金給付の2分の1は国庫負担)をしつつも、社会保険制度の面を残し倫理的勤労意欲を維持したいと思います。2階部分は現役世代の実質可処分所得に対する高齢者世代の必要所得率を社会全体で合意し、財政最悪期(2050年ごろ)にもこの比率が保持できるように負担給付、さらに積立金の増減を調整すべきだと思います。

賦課方式、積立方式の基礎的な議論の書として、本書は一読する価値があります。