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ロバート・J・フラハティ「アラン」(DVD)2009/11/21 05:00:00


ロバート・J・フラハティ「アラン」(DVD)(1934年)

シング「アラン島」のおよそ30年後に撮影された「ドキュメンタリー」映画。「ドキュメンタリー」といっても相当の演出がされています。単純な記録映画ならあり得ないカメラワーク、空と雲を印象付ける遠景カットやロー・アングルなど満載ですが、荒々しい自然や島民の表情を巧みに操って、ある意味「非常に様式的な」表現を実現しています。また、主要な見せ場になっている鮫漁は、撮影時点で50年以上前から行われていなかった廃れた漁だったそうです。実際、30年前のシング「アラン島」には鮫漁の事は全く触れられていません。

[CiNii(国立情報学研究所論文情報ナビゲータ)]原田美知子「映画『アラン』考 : 1930年代のアイルランド」(2006年)というペーパ―に詳しく書かれていたのですが、当時のアイルランド自治政権は民族主義傾向が非常に強くファシズム的ですらあったため、その政治的プロパガンダとしてこの映画が意識されており、その趣旨に適合したその「様式美」はファシズムの美学そのものです(レニ・リーフェンシュタール「民族の祭典」等を想起させる)。従って、自治政府はこの作品を「ケルト的であることの典型」として称揚しました。

そもそもフラハティはシング「アラン島」のに触発されたともいわれていますが、そのためか、シング「アラン島」と映画「アラン」には共通点があります。例えば、映画冒頭でカラハ(地元の小型船)に穴が開くのですが、シング「アラン島」で記載されたいたのと同様に、衣服の一部をちぎって穴を防ぐ応急措置が行われます。一方、逆にシング「アラン島」では、農作物の生育もままならず、借金が返済できなくなった農家に対し、借金の担保収容に警察力が導入されるという、地主階級と小作階級の対立も描かれていますが、映画では岩と海に立ち向かう雄々しい島民のすがたしか描かれません。地主階級は全く見られません。

カラハが波に翻弄される姿や、海岸線に打ち寄せる波と、波がしらが散って、雨か霧のようになって島内に降り注ぐ様子はは、シング「アラン島」の記述に具体的なイメージを与えてくれます。最近出た普及価格版といことなので、シング「アラン島」ともども、楽しむことができると思います。

[CiNii(国立情報学研究所論文情報ナビゲータ)]原田美知子「映画『アラン』考 : 1930年代のアイルランド」紀要. 桜美林英語英米文学研究第46輯(2006年3月)、桜美林大学